下の入れ歯が浮く・外れるのはなぜか――鍵を握る「辺縁封鎖」と5つの原因

2026.06.22

下の入れ歯が浮く。食事の途中で外れる。話していると動いてしまって安定しない――。こうしたお悩みで来院される方は、本当にたくさんいらっしゃいます。

不思議なことに、上の入れ歯は問題ないのに、下の入れ歯だけがどうしても安定しない、という方が少なくありません。そして、その多くの方が「歯ぐきが少ないから仕方ない」「歳をとったのだから仕方がない」と、ご自身を責めるように話されます。

ですが、私の経験から申し上げると、それはあなただけのせいではありません。下の入れ歯は、上の入れ歯に比べて、もともと外れやすい原因が存在します。そしてその外れやすさには、突き詰めるとはっきりした原因があります。

このページでは、ひらの歯科医院の院長である私、平野哲也が、下の入れ歯が浮く・外れる本当の理由と、その鍵を握る「辺縁封鎖(へんえんふうさ)」という仕組みについて、できるだけわかりやすくお伝えします。

下の入れ歯が浮く・外れるのは、あなただけではありません

「上の入れ歯は調子がいいのに、下だけがどうしても浮いてくる」。これは、入れ歯のご相談の中でも、とりわけ多いお悩みの一つです。

下の入れ歯が安定しないと、食事のたびに気をつかい、人と話すときも外れないか不安で、会話に集中できなくなってしまいます。安定剤を毎日使い、それでも落ち着かず、だんだん外出そのものがおっくうになっていく――そうやって少しずつ生活の質が低下していく方を、私は何人も見てきました。

そうした方の多くが、原因をご自身の中に探そうとされます。けれども、後ほど詳しくお話しするように、下の入れ歯が外れやすいのには、患者さんご自身ではどうにもならない構造的な事情と、いくつかのはっきりした原因があります。原因がわかれば、打てる手も見えてきます。まずは「下の入れ歯はもともと難しいものなのだ」ということを知っていただくところから始めましょう。

なお、「浮く・外れる」と並んでよくあるお悩みが「痛い」です。痛みについては別の記事で詳しくお話ししていますので、痛みが主なお悩みの方はそちらもご覧ください。

▼あわせて読みたい:入れ歯が痛いとき、まず疑うべきこと

そもそも、下の入れ歯はなぜ外れやすいのか

下の入れ歯が上の入れ歯より外れやすいのには、はっきりした理由があります。

上の入れ歯は、上あごの天井の部分(口蓋)まで広く覆うことができます。広い面でお口の粘膜に吸いつくため、比較的安定しやすいのです。一方、下の入れ歯は、馬の蹄のような細い馬蹄形をしていて、覆える面積がそもそも狭いという事情があります。

さらに、下の入れ歯には「舌」という大きな存在があります。舌は発音や咀嚼、飲み込みのたびに動きますし、その周りには唇や頬の筋肉もあります。下の入れ歯は、この動き続ける舌と頬・唇の筋肉に常に囲まれた、狭い土俵の上に乗っているわけです。これが、下の入れ歯が安定しない根本的な理由です。

ですから、下の総入れ歯を安定させるときには、入れ歯を舌と頬、そして唇で挟んで包み込み、支えてあげるイメージが大切になります。入れ歯を乗せる歯ぐきが少ないことが難しい症例であるのはもちろんですが、実は、舌が後ろに下がっている(後退している)ことも、それと並ぶ難しさの一つです。舌が後退すると、後ほどお話しする「辺縁封鎖」が解けて、入れ歯が浮き上がりやすくなるからです。

つまり、下の入れ歯の安定は、歯科医師が安定する形をしっかり作り込むことと、患者さんご自身に舌や唇の使い方を意識していただくこと、その両方で支えられているのです。こうした不利な条件の中で、下の入れ歯がどうやって安定しているのか。その鍵を握るのが、入れ歯の縁(ふち)まわりをぴたりと閉じる「辺縁封鎖」という仕組みです。これについては第4章で詳しくお話しします。

下の入れ歯が浮く・外れる、5つの原因

下の入れ歯が浮く・外れる原因は、突き詰めると、おおよそ5つに整理できます。一つずつ見ていきましょう。

原因① 入れ歯を乗せる歯ぐき(骨)が少ない――最も多い原因

最も多いのが、入れ歯を乗せる土台である歯ぐき(骨)が、極端に少ないケースです。

入れ歯は、歯ぐきの土手の上に乗って安定します。この土手が低く、平らに近くなっていると、入れ歯が引っかかる足場がなく、浮きやすく・ずれやすくなります。歯ぐき(骨)が極端に少ない場合には、安定させるのが非常に難しくなることがあります。

土台そのものが少ない方の入れ歯づくりについては、別の記事で詳しくお話ししていますので、心当たりのある方はそちらもあわせてご覧ください。

原因② 唇の力が強い(口唇圧)

二つめは、唇の力が強いケースです。

唇や頬の筋肉の力が強い方は、その力で、特に下の入れ歯が外側から弾き出され、浮き上がりやすくなる傾向があります。ご自身では気づきにくいのですが、常に口元に力が入っていて、唇や頬が緊張している方がいらっしゃいます。

私は、初めてお会いして、お顔とお口の中を拝見するときに、まず「唇に異常に力が入って緊張していないか」を確認します。唇を触ると、その緊張はすぐにわかります。また、はじめにお口の中の写真を撮ったり、おおまかな型(概形印象)を取ったりする際にも、力の入り具合が見えてきます。唇に強い力が入っていると、型を取るときに、材料が必要なところに入らず、はじき出されてしまうのです。「お口を開けてください」とお願いするときに、唇や顔全体にものすごく力を入れてしまう方もいらっしゃいます。

こうした方は、力を抜くこと自体がなかなか難しいようですので、必要に応じて、力を抜く(脱力する)練習をしていただくこともあります。

原因③ 舌が下がっている(舌の後退)

三つめは、舌の位置が下がっている(後退している)ケースです。

本来、舌の先は、上の前歯の裏側あたりに自然と置かれているのが望ましい位置です。ところが、年齢を重ねるなどして舌が少しずつ後ろに下がってくると、入れ歯の縁と舌のあいだに隙間ができ、そこから空気や唾液が入り込んで、入れ歯がバコッと外れてしまうことがあります。これは第4章でお話しする「辺縁封鎖」が崩れている状態です。

舌が後退している方は、意外と多くいらっしゃいます。そして、ほとんどの方が、ご自身ではそのことに気づいていません。ですので私は、後退している状態をお口の写真に撮ってお見せし、ご自分の舌の位置を実際に確かめていただくようにしています。舌の位置は、意識することで変えていけるからです。その具体的な方法は、第4章でお話しします。

原因④ 口の中が乾く(唾液が少ない)

四つめは、お口の中が乾きやすいケースです。

入れ歯は、適度な唾液があることで粘膜に吸いつきやすくなります。唾液が少なく、お口の中が乾燥しやすい方は、その吸いつきが得られにくく、外れやすくなる傾向があります。

原因⑤ 噛み合わせが合っていない――作り手側の原因

五つめは、噛み合わせが合っていないケースです。これは、ここまでの4つと違って、患者さんの側ではなく、入れ歯を作る側の問題です。

たとえば前歯だけが先に当たってしまうと、その一点を支点にして入れ歯が傾き、後ろが浮いて外れてしまいます。逆に、左右の奥歯どうしが上下でしっかりと噛み合っていると、その噛む力が土台を押さえつける方向に働き、入れ歯はもっとも安定します。

噛み合わせは、入れ歯の安定を左右するとても重要な要素です。当院ではこの工程を「噛み合わせの検査(咬合採得)」と呼んでいて、ここに特に力を入れています。詳しくは別の記事でお話ししています。

▼あわせて読みたい:入れ歯の噛み合わせが合わない

鍵を握るのは「辺縁封鎖」と舌の位置

ここからが、下の入れ歯の安定を考えるうえで、最も大切なお話です。

下の総入れ歯が外れない仕組みは、入れ歯の縁(辺縁)のまわりを、空気や唾液が入り込まないようにぴたりと閉じることにあります。これを「辺縁封鎖」と呼びます。

イメージとしては、吸盤がぴたりと貼りつくのに似ています。縁のまわりに隙間がなく、ぴたりと閉じていれば、入れ歯は浮き上がりません。逆に、どこか一か所でも縁に隙間ができると、そこから空気や唾液が入り込み、吸盤がはがれるように入れ歯が外れてしまいます。

この封鎖を保つために、大きな役割を果たしているのが、舌と頬の位置です。第2章でお話ししたように、下の入れ歯は、舌と頬・唇で挟んで包み込むようにして安定しています。舌と頬が入れ歯の縁を内側・外側から適切に押さえていれば、封鎖は保たれます。ところが、第3章の原因③でお話ししたように、舌が後ろに下がってしまうと、この封鎖が解けてしまい、入れ歯が外れやすくなるのです。

そこで当院では、必要に応じて「舌の位置トレーニング」をご案内することがあります。これは、舌を本来あるべき位置に置く習慣を、少しずつ取り戻していただくためのものです。

具体的には、今お使いの入れ歯の前歯の裏側に、小さな突起(ポッチ)を付けることがあります。そして、普段から、その突起に舌の先が触れるように意識していただくのです。こうして舌先を「上の前歯の裏側あたり」という本来の位置に置く習慣がついてくると、入れ歯の安定性は格段に向上します。

下の入れ歯の安定は、私たち歯科医師が安定する形をしっかり作り込むことと、患者さんご自身がこうして舌の位置を意識してくださること、その両方がそろって初めて、しっかりしたものになります。

浮く・外れるを我慢して使い続けると、どうなるか

浮く・外れる入れ歯を、だましだまし使い続けることには、いくつかのリスクが伴います。

まず、合っていない入れ歯を使い続けると、入れ歯から土台に不適切な力がかかり続け、入れ歯を支えている歯ぐき(骨)が、本来の形を保てずに痩せていくことがあります。土台が痩せれば、入れ歯はますます安定しにくくなり、悪循環に陥ってしまいます。原因①でお話しした「歯ぐき(骨)が少ない」状態を、ご自身で進めてしまうことになりかねないのです。

また、しっかり噛めない状態が続くと、食べられるものが限られ、やわらかいものばかりを選ぶようになり、栄養の偏りにつながることがあります。外れる不安から会話や外出を避けるようになると、生活そのものの質が低下してしまいます。

そして、土台が痩せてしまってから作り直すと、入れ歯づくりの難易度は一段と上がります。だからこそ、「浮く・外れる」は早めに手を打っていただきたいお悩みです。土台が大きく痩せてしまった方への対応については、別の記事でお話ししています。

▼あわせて読みたい:歯ぐきが痩せていても、合う入れ歯は作れる

ご自身でできること、やってはいけないこと

「では、外れるときにどうすればいいのか」というご質問をよくいただきます。

まず、市販の入れ歯安定剤について。安定剤は、一時的に入れ歯を安定させる助けにはなります。ただし、使い方には、よい使い方とそうでない使い方があります。

避けていただきたいのは、入れ歯と歯ぐきのあいだに大きな隙間が空いているのを、安定剤で埋めようとする使い方です。これはおすすめできません。大切な噛み合わせが合わなくなってしまったり、大量の安定剤に食べかすが付いて不潔になり、歯ぐきに炎症が起きたりすることがあるからです。さらに、歯ぐきにかかる力が一点に集中して、歯ぐきが痩せるスピードを早めてしまうこともあります。入れ歯と歯ぐきに大きな隙間が空いている場合は、安定剤で埋めるのではなく、歯科医院で「リライン」という、その隙間を埋める処置を受けていただくのが本筋です。

一方で、よい使い方もあります。入れ歯と歯ぐきがフィットしていて、噛み合わせも合っている状態で、補助的に少量だけ使う――これが理想的な使い方です。たとえば、ご自宅では安定剤なしでも問題なく食事ができるけれど、外食のときだけは少し心配なので、少量を使う。こうした使い方であれば、問題ありません。安定剤にもさまざまな種類がありますので、ご自身に合ったものを選ぶことも大切です。

もう一つ、避けていただきたいのが、ご自身で入れ歯を削る対処です。外れる、当たって痛い、という場所をご自分で削りたくなるお気持ちはよくわかります。ですが、その行為が、かえって新たな問題を引き起こしてしまうことがあります。浮く・外れる原因は、第3章でお話ししたように一つとはかぎらず、いくつかが重なっていることも多いため、見立てを誤ったまま削ると、入れ歯の安定をさらに損なってしまいかねません。痛むときや外れるときは、削る前に、歯科医院で歯科医師に調整してもらっていただくのが安心です。

「安定剤なしで完璧に」とは、最初からお約束しません

ここで、私が下の入れ歯を作るときに大切にしている姿勢を、正直にお伝えしておきたいと思います。

私は、治療を始める前のご相談や検査のときに、患者さんと「治療のゴール」を共有するようにしています。これまで多くの入れ歯治療に携わってきた経験から、私には、入れ歯を作る前の段階で、おおよその仕上がり(ゴール)が思い描けます。ですので、患者さんの今の状態を詳しくご説明し、目指せるゴールに納得していただいたうえで、治療に入ります。このとき、過度な期待を持っていただかないように、とくに気をつけています。

たとえば、歯ぐき(骨)が極端に少ない方の下の総入れ歯は、「安定剤をいっさい使わずに、ぴたりと浮かない入れ歯」を作るのが、現実にはとても難しいことがあります。そうした方には、「入れ歯はしっかり安定するように作りますが、状況によっては、最終的に少しだけ安定剤を使っていただくことになるかもしれません」と、あらかじめ正直にお伝えしています。

「絶対に外れません」「これさえ作れば安定剤はもう要りません」と安請け合いをするのは簡単です。けれども、歯ぐきや舌、唇や頬の条件によっては、それが守れないお約束になってしまうことがあります。

また、入れ歯は、お口に入れればすぐに自分の歯のように使えるものではなく、患者さんご自身が上手に使いこなす努力も必要な「道具」です。ですから、第3章・第4章でお話しした唇の脱力や舌の位置の大切さも、必要に応じてお伝えしています。

できることとできないことを最初に正直にお話しし、そのうえで、その方にとって今できる最善を尽くす――それが誠実な向き合い方だと、私は考えています。

当院での下の総義歯への向き合い方と、ご相談の流れ

最後に、当院で下の入れ歯の「浮く・外れる」にどう向き合っているかを、簡単にお伝えします。

当院では、いきなり最終的な入れ歯を作るのではなく、まずは治療用の入れ歯(トレーニング義歯)で、浮かないか、きちんと噛めるか、舌の位置や唇の緊張ぐあいはどうか、といったことを、実際に使いながら確かめていくことがあります。下の入れ歯は、模型の上だけでは見えない「動き」との調和が大切ですので、段階を踏んで仕上げていきます。

また、当院では一回の診療に60分から180分ほどの時間を確保しています。これは、のんびり進めるためではありません。型を取り、噛み合わせを確かめ、実際に使っていただく中で、封鎖が崩れる場所やズレがその場で見つかったときに、すぐに修正できる時間の余裕を持っておくためです。

そして、初めて来院される方には、まず女性の入れ歯カウンセラー(歯科衛生士)が、これまでの経緯やお悩みをじっくりお聞きします。「下の入れ歯が外れて困っている」という長年のお悩みを、安心してお話しいただける体制を整えています。

下の入れ歯が浮く・外れるというお悩みは、「歳のせい」でも、「歯ぐきが痩せた」ことだけが原因でもありません。そこには必ず原因があり、その多くは突き止めて、手を打つことができます。長く我慢してこられた方こそ、一度、その原因を一緒に確かめてみませんか。ご相談だけでも構いません。お気軽にお声がけください。

▼あわせて読みたい:入れ歯が痛いとき、まず疑うべきこと入れ歯が合わない、本当の原因

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歯科医院紹介

平野哲也院長

平野哲也院長

施設名 医療法人社団湘仁会 ひらの歯科医院
診療科目
  • 歯科
責任者 平野哲也院長
[学歴] 1994年 新潟大学卒業
[開業年] 1998年
電話番号 0466-49-1382
所在地 〒252-0823 神奈川県藤沢市菖蒲沢611-1
時間
09:00~13:00
14:30~17:30

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