入れ歯が痛いとき、まず疑うべきこと――痛みの原因は、突き詰めると二つに集約されます

2026.06.22

入れ歯が痛い――。その痛みを「入れ歯とは、もともとこういうものだ」「歳をとって、歯ぐきが痩せたから仕方がない」と諦めて、何年も我慢しながら使い続けて来られた方に、私はこれまで数多くお会いしてきました。

ですが、私の経験から申し上げると、入れ歯の痛みには、ほとんどの場合、はっきりとした原因があります。そして、その原因は決して数え切れないほど多いわけではなく、突き詰めていくと、ごく限られたいくつかの要因に集約されます。

このページでは、ひらの歯科医院の院長である私、平野哲也が、入れ歯が痛くなる本当の原因を、いつも患者さんにお話ししている言葉で整理してお伝えします。痛みの正体がわかれば、「我慢するしかない」という思い込みから、一歩抜け出していただけるはずです。

入れ歯の痛みは「我慢するもの」ではありません

入れ歯の痛みについて、まず最初にお伝えしておきたいことがあります。それは、「痛いのは慣れていないからで、使い続ければそのうち治る」という考え方は、必ずしも正しくない、ということです。

たしかに、新しい入れ歯を入れた直後は、お口がまだ慣れていないために、多少の違和感や当たりによる痛みを感じることがあります。実際、使い始めはほとんどのケースで、歯ぐきに小さな傷ができたりします。これは調整を重ねながら馴染ませていくもので、自然な過程です。

しかし、「噛むたびに同じ場所が痛い」「特定の場所に傷ができる」「以前は大丈夫だったのに、最近痛むようになった」といった痛みは、慣れの問題ではなく、入れ歯とお口のあいだに何らかのズレが生じているサインであることがほとんどです。こうした痛みは、我慢して使い続けても自然に治まることは少なく、かえって状態が悪くなっていく傾向があります。

患者さんの中には、「痛い」と申し出ることをためらわれる方もいらっしゃいます。せっかく作ってもらった入れ歯だから、文句を言うようで気が引ける、と。ですが私は、痛みは遠慮なくお伝えいただきたいと考えています。痛みには原因があり、その多くは突き止めることができ、突き止められれば対処の道筋が見えてくるからです。

もちろん、私の方でも、歯ぐきや舌、頬などを詳しく観察し、傷ができていないかなどを一つひとつチェックしていきます。

この記事では、その「痛みの原因」を、できるだけ整理してお話ししていきます。なお、「合わない入れ歯」全般の原因については、別の記事で製作の段階やお口の変化まで含めて詳しくまとめていますので、あわせてお読みいただければと思います。

▼あわせて読みたい:入れ歯が合わない、本当の原因

入れ歯の痛みは、突き詰めると二つに集約されます

私は患者さんに、「入れ歯の痛みの原因は、本質的には二つしかありません」とお話しすることがよくあります。痛む場所や感じ方は人によってさまざまですが、その根本にある仕組みをたどっていくと、たいていこの二つのどちらか、あるいは両方に行き着きます。

原因① 入れ歯が歯ぐきに「食い込む」

一つめは、入れ歯が歯ぐきに食い込んで、痛みや傷を生じているケースです。

入れ歯は、歯ぐき(粘膜)の上に乗って、噛む力を受け止める道具です。本来であれば、覆うべきところをきちんと覆い、力を広い面で受け止めて分散することで、一か所に負担が集中しないように作られています。

ところが、入れ歯が小さすぎたり、短すぎたりして、覆うべきところを覆い切れていないと、入れ歯の端が歯ぐきに食い込みやすくなります。すると、噛むたびにその端の部分だけが歯ぐきを刺激し、痛みや傷の原因になることがあるのです。逆に、大きすぎる場合も、舌や頬にぶつかって傷ができてしまうことがあります。

ここで、一つ多くの方が誤解されている点をお伝えしておきます。「入れ歯は小さいほうが違和感が少なくてよい」と思っておられる方が、とても多いのです。ですが、実はそうではありません。覆うべきところをしっかり覆い、歯ぐきとフィットさせ、噛み合わせが合ってくると、大きさそのものはあまり気にならなくなる方が多いのです。

痛いところを削るだけの調整を繰り返していると、入れ歯はどんどん理想の形からかけ離れていき、かえって安定が悪くなってしまうことが少なくありません。食い込むところを調整して痛みを取りながらも、理想の形はなるべく崩さず、入れ歯の形と歯ぐきとのフィット、そして噛み合わせを合わせていく――この見極めが大切だと、私は考えています。

原因② 噛んだときに「動いてずれて、擦れる」

二つめは、噛んだときに入れ歯が動いてずれ、歯ぐきと擦れて痛むケースです。

入れ歯がしっかり安定して噛めている状態というのは、噛む力が入れ歯全体に広く分散している状態です。ところが、噛み合わせが一点に集中していると、その一点を支点にして入れ歯が動き、歯ぐきの上で擦れてしまいます。この擦れが、痛みや傷を生むことがあります。

噛み合わせが合っているかどうかは、ご自身ではなかなか気づきにくいものです。「前歯では当たるけれど奥歯では当たっていない」「左右のどちらかだけで強く当たる」といった偏りがあっても、毎日使っているうちに慣れてしまい、痛みの原因が噛み合わせにあるとは思い至らないことが多いのです。

なお、噛み合わせは入れ歯づくりの中でもとくに重要な工程で、これを「噛み合わせの検査(咬合採得)」といいます。この検査の精度が、入れ歯が痛むか痛まないかを大きく左右します。噛み合わせの重要性については、別の記事で詳しくお話ししていますので、より深く知りたい方はそちらもご覧ください。

▼あわせて読みたい:入れ歯の噛み合わせが合わない

ここまでが、入れ歯の痛みの「本質的な二つの原因」です。多くの痛みは、この「食い込む」か「動いて擦れる」か、あるいはその両方で説明がつきます。

ただし、これだけでは説明のつかない、見落とされがちな三つめの原因があります。次の章でお話しします。

見落とされがちな、第三の原因――入れ歯が「大きすぎる」

三つめの原因は、入れ歯が「大きすぎる」ことです。

第2章でお話しした「食い込む」原因の多くは、入れ歯が小さすぎる・短すぎることでした。ですが、その逆に、入れ歯が大きすぎることで痛みが出ているケースも、実際にあります。

入れ歯が必要以上に大きく、分厚く作られていると、お口の中のあちこちを圧迫してしまいます。粘膜の動く部分にまで入れ歯が張り出していると、しゃべったり食べたりするたびに粘膜とぶつかり、当たって痛む。口を閉じづらい、舌の動きが窮屈、しゃべりにくい、飲み込みにくい、といった違和感が出ることもあります。

意外に思われるかもしれませんが、これは保険の入れ歯にかぎった話ではありません。費用をかけて作られた自費の入れ歯でも、大きすぎる・分厚すぎるために合わなくなっているケースを、私は実際に経験しています。

自費の入れ歯であっても、作り手である歯科医師と歯科技工士が、その方に合った適正な形態を十分に理解していないと、大きすぎる入れ歯ができてしまうことがあります。中には、分厚く・大きく作るほうが安定すると考えて作られているケースもあります。そうした場合、患者さんが違和感を訴えても、「使ううちに慣れるもの」と受け止められ、形そのものが見直されにくいことがあります。

では、なぜ「大きすぎる入れ歯」ができてしまうのか。ここに、入れ歯づくりの本質に関わる、あまり知られていない理由があります。次の章で、その仕組みを解き明かしていきます。

なぜ「大きすぎる入れ歯」ができてしまうのか

入れ歯を作るときには、まずお口の型を取ります。この型の取り方に、「大きすぎる入れ歯」が生まれる理由が隠れています。

少し専門的になりますが、入れ歯づくりの型取りには、大きく二つの段階があります。一つめが、治療のはじめに行う「おおまかな型取り(概形印象)」。二つめが、実際の入れ歯の形を決めるための「精密な型取り(精密印象)」です。

最初の「おおまかな型取り」は、硬めの材料を使って、あえて大きめに取ることがあります。硬めの材料で型を取ると、材料を押し込んだときの圧力で頬の内側をぐっと押し広げてしまい、結果として実際よりも大きめの型が取れます。

ですが、この「大きめに取る」こと自体は、間違いではありません。この段階の型取りは、お口の中の、入れ歯づくりに欠かせない目印(ランドマーク)をもれなく記録し、その方に合った入れ歯の形や、治療の難しさ・問題点を、あらかじめ把握するための、いわば下書きの工程だからです。これは、設計の出発点となる模型(研究用模型)を作るための型であって、決して、実際に入れ歯を作るための最終的な型ではありません。

問題は、この「大きめの下書きの型」を、そのまま最終的な入れ歯の形にしてしまうことです。型取りを一度きりで終え、おおまかな型のまま入れ歯を仕上げてしまうと、実際のお口よりも大きく、分厚い入れ歯ができあがってしまいます。

本来は、おおまかな型をもとに、もう一段階、二段階と精密な型を採り重ねていき、最終的にはお口にぴたりと合う形へと近づけていきます。この「精密な型取り」は、実際に入れ歯を作る模型(作業用模型)のためのもので、その精度が、できあがった入れ歯と歯ぐきの合い具合に直結します。この工程を踏まずに、最初の大きめの型で形を決めてしまうと、痛みや圧迫の原因になりやすいのです。

さらに、もう一つ申し上げておきたいことがあります。歯科医師や歯科技工士の中には、「分厚いほうが安定する」と考えて、あえて分厚く作る方がいらっしゃいます。たしかに一見、分厚いほうが頑丈で安定しそうに思えます。ですが私は、これは必ずしも正しくないと考えています。

入れ歯を分厚く作ると、せっかくお口の動きに合わせて精密に取った型の意味が薄れてしまいます。それだけでなく、分厚い入れ歯は下あごの動きを妨げ、口が開けづらくなったり、閉じづらくなったりといった不具合を生むことがあります。

たとえば、上の奥歯の頬側を分厚くしてしまうと、お口を開けるときに、下あごの骨の一部(筋突起という部位)が入れ歯に当たってしまい、うまく口を開けられなくなることがあります。発音がしづらくなることもあります。「分厚いほうが、下の総入れ歯が外れにくくなるのでは」と思われるかもしれませんが、実際には、その分厚さが食事や発音といった毎日の動きの邪魔をしてしまうことのほうが多いのです。そもそも、分厚すぎる入れ歯は違和感が大きく、つけていられない、という方も少なくありません。

痛みを我慢して使い続けると、どうなるか

痛みの原因がわかったところで、改めてお伝えしたいことがあります。それは、入れ歯の痛みを我慢して使い続けることには、いくつかのリスクが伴う、ということです。

まず、痛む入れ歯を使い続けると、歯ぐきに傷がつき、その傷が炎症を起こしたり、潰瘍ができたりすることがあります。傷ができている状態でさらに入れ歯を使い続けると、傷はなかなか治らず、痛みはいっそう大きくなってしまいます。

もう一つ、見過ごせないのが歯ぐきそのものの変化です。合わない入れ歯から不適切な力が歯ぐきにかかり続けると、入れ歯を支えている歯ぐき(骨)が、本来の形を保てなくなっていくことがあります。歯ぐきが柔らかくぶよぶよとした状態(フラビーガムといいます)になってしまうと、その上に安定した入れ歯を作ること自体が、いっそう難しくなります。つまり、痛みを我慢することで、次に作る入れ歯の難易度まで上げてしまう可能性があるのです。

そして何より、痛みのために十分に噛めない状態が続くと、食べられるものが限られ、栄養の偏りにつながることがあります。やわらかいものばかりを選んでしまう。食事が楽しめなくなる。人と会って話すのもおっくうになる。痛みは、お口の中だけの問題にとどまらず、毎日の生活の質そのものに関わってきます。

歯ぐき(骨)が大きく痩せてしまった方の入れ歯づくりについては、別の記事で詳しくお話ししています。「もう自分の歯ぐきでは無理だ」と言われた方も、あきらめる前に一度お読みいただければと思います。

▼あわせて読みたい:歯ぐきが痩せていても、合う入れ歯は作れる

ご自身でできる応急的な対処と、やってはいけないこと

「では、痛いときにどうすればいいのか」。これは、患者さんからよくいただくご質問です。

応急的にできることとしては、まず、痛みが強いときには無理に使い続けず、一度入れ歯を外して歯ぐきを休ませてあげることが挙げられます。傷ができている場合は、その傷が落ち着くまで使用を控えることで、痛みがやわらぐことがあります。そのうえで、できるだけ早めに歯科を受診していただくのが、根本的な解決への近道です。

一方で、痛いからといって、ご自身で対処しようとして、かえって状態を悪くしてしまう例も少なくありません。とくに気をつけていただきたいのが、次のような対応です。

なお、当院に通っていただいている患者さんには、こうした自己流の調整は控えていただくよう、最初にお伝えしています。きちんとお話しすれば、ご自身で削ってしまう方は、ほとんどいらっしゃいません。困ったときは、削る前に一度ご相談いただくのが、結局はいちばんの近道です。

痛みの原因は、必ず「客観的な事実」としてお伝えします

ここで、私が痛みを訴えて来院された方に向き合うときに、いつも心がけていることをお話しさせてください。

他院で作られた入れ歯が痛くて来院される方は、たくさんいらっしゃいます。そうしたとき、私は、前にその入れ歯を作られた歯科医師を否定するようなことは、決して申し上げません。私はこれを「前医の批評はしない」と自分の中で決めています。

「後医は名医」という言葉があります。後から診る医師は、前の医師が行った治療の結果を見たうえで治療を始めるわけですから、はじめから前の医師よりも多くの情報を持っています。その有利な立場から、前の治療がうまくいかなかったことを単に批判するのは、私はフェアではないと考えています。それはとりもなおさず、前の医師を信じて治療を受けてこられた患者さんご自身の選択まで、否定してしまうことになるからです。

前の歯科医師も、その時々で、患者さんのためを思って入れ歯を作られたはずです。たとえば入れ歯を小さめに作られていたとしても、それは「なるべく違和感が少ないように」という配慮の結果かもしれません。事情を知らない私が、結果だけを見て批評するのは、やはり適切ではないと思うのです。

ですので私は、患者さんには、良し悪しの評価ではなく、客観的な事実だけをお伝えするようにしています。「この入れ歯は、少し小さすぎるようですね」「ここの噛み合わせが、一点に集中しているようです」――そうした、目の前で確認できる事実です。そのうえで、「では、どうすれば良くなるか」を一緒に考えていきます。

痛みの原因を、感情ではなく事実として一つひとつ確かめていく。これが、痛みを解決するための最初の一歩だと、私は考えています。

当院での痛みへの向き合い方と、ご相談の流れ

最後に、当院で入れ歯の痛みにどう向き合っているかを、簡単にお伝えします。

以前、こんな方が来院されたことがあります。費用をかけて他院で作られた入れ歯が、あまりに大きすぎて、お口に入れるのにも苦労されている、という状態でした。口を大きく開けないと入らないほどの大きさで、これでは日常的に使うのは難しい。これは、第3章・第4章でお話しした「大きすぎる入れ歯」が、現実に起こりうることを示す一例です。

こうした痛みや不具合に向き合うために、当院では一回の診療に60分から180分ほどの時間を確保しています。これは、一つひとつの工程をのんびり進めるためではありません。型を取り、噛み合わせを確かめていく中で、その場でズレやエラーが見つかったときに、すぐに修正できる時間の余裕を持っておくためです。痛みの原因をその場で確かめ、必要な手を打てるようにしておく――そのための時間です。

また、初めて来院される方には、まず女性の入れ歯カウンセラー(歯科衛生士)が、これまでの経緯やお悩みをじっくりとお聞きします。「痛い」と言いづらかった方も、安心してお話しいただける体制を整えています。

そして、いきなり最終的な入れ歯を作るのではなく、まずは治療用の入れ歯(トレーニング義歯)で、痛みが出ないか、きちんと噛めるかをご自身で確かめていただいてから、本番の入れ歯へ進む、という段階的な進め方も用意しています。

入れ歯が痛い、というお悩みは、「我慢するしかないもの」ではありません。痛みには原因があり、その多くは突き止めることができます。何年も我慢してこられた方こそ、一度、痛みの正体を一緒に確かめてみませんか。ご相談だけでも構いません。お気軽にお声がけください。

▼あわせて読みたい:入れ歯が合わない、本当の原因下の入れ歯が浮く・外れるのはなぜか

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歯科医院紹介

平野哲也院長

平野哲也院長

施設名 医療法人社団湘仁会 ひらの歯科医院
診療科目
  • 歯科
責任者 平野哲也院長
[学歴] 1994年 新潟大学卒業
[開業年] 1998年
電話番号 0466-49-1382
所在地 〒252-0823 神奈川県藤沢市菖蒲沢611-1
時間
09:00~13:00
14:30~17:30

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